佐藤時啓『八戸マジックランタン』(八戸市美術館)は、同美術館で2022年10月29日から2023年1月9日まで開催している同名展覧会の図録である。
本作と展示で発表された作品は、2016年から2022年にかけて佐藤が八戸にてキャンピングトレーラーで生活しながら制作したものだ。トレーラーでの生活は宿泊費を抑える名目もあったが、佐藤はまず地元の食材を買い、それを自分で料理して胃袋に収めることで八戸を知ることから始めたという。
本作は「Camera Lucida」「An Hour Exposure」「Magic Lantern」の3作品から構成されている。それぞれ異なる機材と撮影方法でもって実践し、具体化しており、佐藤の技術力と発想力が遺憾なく発揮されている。これまでも実験的な手法でもって作品を発表してきたが、生活形態も含めた試みといえる。
このプロジェクトで佐藤が最初に撮影したのは、八戸三社大祭と八戸えんぶりという田楽であった。祭りを見て「この後、どうやって生きていくのだろうと思うほど盛り上がる」という感想を佐藤は抱いた。八戸美術館の学芸員である齊藤未来によると、八戸は昔から凶作や飢饉に見舞われてきて、2つの祭りが豊作祈願や天候回復を祈ったものであるから、その切実な思いが今日のような盛大な祭りに発展したのだろう、と推察している。
地元の食材を料理して食べることから始めた佐藤は、そのことを意識していたかは、わからない。だが撮影を始める前に食べることから始めたというのは興味深い。赤坂憲雄(民俗学者)の「ルサンチマンをこえて」という言葉が腑に落ちていったと佐藤は書いているが、そのこえた先にある写真は、自然の脅威を通過して逞しく生き残った現在の姿を象徴的にとらえているように感じられる。
なお、本書のデザインを野村浩(美術家・写真家)が手掛けていることにも注目したい。
- 『佐藤時啓−八戸マジックランタン–』展覧会公式図録
- 八戸市美術館
- 編集=松本知己
- デザイン=野村浩
- 価格=3960円(税込)
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