top 本と展示写真集紹介王露『Frozen are the Winds of Time』

王露『Frozen are the Winds of Time』

2022/12/15

『Frozen are the Winds of Time』（ふげん社）は中国山西省出身である王露の初作品集であるが、すでに傑作というに相応しい作品である。

1989年生まれた彼女は18歳まで山西省で育った。12歳のとき、父親は事故により脳が損傷し、医師から精神障害と診断された。彼の記憶がある時点で止まり、娘の姿も事故当時のまま記憶されているらしい。

王露は北京の大学で進学し、続いて東京の美大に留学した。それは故郷から離れる口実でもあった。だが、逃れようと思って離れた場所に戻り、彼女はカメラを向けた。土地開発によって故郷の風景は変化していくが、両親の肉体は老いつつも、父の記憶はずっと立ち止まったままだ。父にカメラを向けたとき拒絶するように手を差し出すカットがいくつかあるが、それは時間そのものを拒絶するような素振りのようにも見えてくる。変化する街と時間の止まった父という対比が、本作を通底して流れている。

巻末に映画監督のジャ・ジャンクーが寄稿している。彼自身も山西省出身であり、近作の『山河ノスタルジア』や『帰れない二人』も時間の流れが重要な要素となっていた。両者は出身地だけでなく、作品においても共通する点があるように思える。

『Frozen are the Winds of Time』は写真でありながら、時の流れを想起させる。王露はいずれ写真だけでなく、次なる映像表現へと発展していくのではないかと思わせる未知の可能性を感じさせる。