佐藤春菜の『since I was 25』(私家版)は、すでにない私小説が今は写真となって息づいていることを感じさせる良品だ。
10年間、朝起きて、母の「いってらっしゃい」の声におくられて、職場へ向かう。駅までのいつもの道を歩き、電車に揺られ、職場についたら仕事に取りかかる。言葉にすれば凡庸な単調な日々であるが、佐藤はフィルムカメラをもって、日常の光景を切り取っていった。
珍しいものはない。事件もない。ただ日常があるだけだ。だが、写真を見る限り、けっして退屈ではない。変哲もない日常が豊穣であることに気付かされる。日常の光景は写真のためにある、そう思わせてくれる作品集になっている。
編集は尾仲浩二と「in)(between gallery」を運営するLuigi Clavareauが担当した。私小説の感触を覚えたのは、私小説家の感性をもった尾仲浩二の眼が反響し、そこにLuigiのスパイスが効いているのだろう。本作は優れた文学作品であるともいえる。
- 佐藤春菜『since I was 25』
- 発行:Kaido Books+in)(between gallery
- 発行日:2022年10月29日
- 判型:225mm×H235mm、ハードカバー、48ページ、写真55点、ダブルトーン
- 初版450部
- 編集:尾仲浩二、Luigi Clavareau(in)(between gallery)
- デザイン:中村健(Mo better design)
- 価格:4180円(税込)
【関連リンク】
https://www.satoharuna.com
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