『TOKYO HEAT WAVE』(蒼穹舎刊)は著者である鈴木信彦の初作品集となる。初めてとはいえ鈴木のキャリアは長く、本作は2000年から2018年に撮影されたものからセレクトされている。
撮影場所は東京渋谷。時間は夜。カメラは、ライカM7とノクチルックス50mmF1.0。被写体の多くはこの街を歩く人。鈴木は対象となる人が通るのを待ち続け、直感的に反応した人を見つけると近づき、シャッターを切る。夜の渋谷を歩く人は女性も男性も、自らの個性を繕い、渋谷という舞台を闊歩するドラマの主人公のように見える。
鈴木は黒を基調とした服をまとい、ポマードで髪を固め、カメラを手にして獲物を狙う狩人のように機会を伺っている。彼もまた、この街の主人公である。
ライカのレンズは夜を彩るネオンの光を掬いとる。ストロボはほとんど使用せず、人工灯でもって被写体の姿を浮かび上がらせる。わずかな光が、より官能性を帯びて、ドラマチックに映える。
服や身につける小物からいつ頃の時代か、その表層からなんとなく察しはつくが、鈴木が撮影する人は、時代を超越した存在感を醸している。つまり、普遍性をもった被写体を見極める鈴木の視線の強さを証明している。
最近これほどまで色気に満ちたストリートスナップは久しく見ていない気がする。写真を見る歓びを喚起させる本作は、2022年における最大の収穫である。
- 価格:4,000円+税
発行:2022年11月11日- 300部 A4変型 上製本
カラー116ページ- 作品113点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也
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