top コラム推すぜ!ニコンSシステム第4回 1999年に復刻発売された「ニコンS3」

推すぜ!ニコンSシステム

第4回 1999年に復刻発売された「ニコンS3」

2023/11/03
赤城耕一

復刻ニコンS3のブラックボディです。復刻=パチなイメージですから中古市場でもオリジナルのモデルよりも格下な扱いだったりしますが、実用派はこちらを選んだほうが安心ですぜ。もっとも本気で写真表現のために復刻S3を使う人なんかいないと思うけど。筆者としてはこのカメラには35mmレンズがもっとも似合うと考えましたのでニッコール3.5cm F2.5を装着してみました。これも名玉です。

 

1999年ってもう24年も前ですね。ニコンD1が登場した時でもあるんですが、同時にミレニアム記念として、ニコンS3が復刻発売されました。
 

当時のニコンは全方位外交というか、フィルムからデジタルまで、カメラと名のつくものは任せておけくらいの勢いがあったのかもしれません。ここで“いい時代”とか書くと残り少ない人生の今後の行く末がイヤになるのでやめときますけどね。 
 

当時は『アサヒカメラ』でメカニズムライターの仕事もしておりましたので、復刻ニコンS3製造現場にも取材に行きました。製造は「水戸ニコン」にて行われていました。なかなかの田舎で驚きましたけど。
 

復刻S3の製造は古めかしいセル生産方式を採用し、古い図面からパーツを起こして苦労して組み立てていました。リアルでニコンSシリーズ製造に携わっていたニコンOBの方にも話を聞いたり、アドバイスしてもらったり、実際に手伝ってもらったということですが、すごいですよね。本気度が違うと感じました。

 


フィルム巻き上げレバーはS3オリンピックに似ています。旧モデルのそれよりも少し大きいですが、見た目がスマートですね。ニコンFにも同じようなデザインのものが採用されています。

 

当時のニコン現行AF一眼レフってF5かしら。これももう金属縦走りのユニットシャッターを使っていたし。F3はチタンの横走りのシャッターだから唯一、内製だったのかもしれないですね。F3も製造中止直前に製造現場の取材に行きましたが、これはたしか仙台ニコンだったんじゃないかな。
 

話が逸れましたけど、自社内でS3のフォーカルプレーンシャッターを組んでいる姿を見て、とても感激したのですが、逆になんとも効率が悪そうにも見えたのは事実です。ふんどし状のシャッター布幕を巻きつけてゆく作業は人によって効率が異なるように見えたからです。昔の人は手先が器用だったのでしょうか。

 


カメラ内部の仕上げはとても美しいですね。フィルムのガードレールの切削とか、素晴らしいすねー。デジカメしか使っている人にはわからんだろうなあ(笑)。布幕シャッターもよい感じですね。

 

復刻モデルにS3がなぜ選ばれたのかはわかりません。というか、聞いたけど忘れましたが、ファインダーはアルバダ式のギラギラしたもので、フレームは切り替え式ではありませんので、レンズ全種類のフレームが見えて賑やかです、しかもパララックスも補正されないという、M型ライカと比較するとがっかりな性能でした。ま、写る範囲が大体わかればいいみたいなくらいでしょうか。でも、距離計の精度はなかなか高かったですね。ファインダー倍率が高かったからでしょう。

 


ファインダーアイピースには、金属剥き出し感あります。筆者のようなメガネユーザーは辛いです。メガネレンズがガリガリ削れるぜー。この位置からでもフレーム見えますね。

 

S3に用意されたレンズはニッコール50mmF1.4はガウスタイプの最後期の高性能のものです。これを復刻していました。
 

古いSマウントニッコールを復刻S3モデルにつけて、レンズが外れないとかトラブっても知らんから装着しないでね、というアナウンスがニコンから正式に出ていましたが、そんなの守る人はいませんよね。あまり大問題になったという話もないので良かったですね。コシナからもSマウントレンズが急遽発売されたし。非常に単純にトラブルを防ぐには、レンズ装着時には、カメラ側もレンズ側もフォーカスリングをインフに設定しておけば間違いはありません。
 

ファインダーのフレ一番外のフレームが35mmになるのですが、どうせ復刻するならば、35mmレンズの方が良かったんじゃないのかしらね。これはのちのニコンSP復刻用に用意されましたが、前に述べたようにSPに内蔵された35mmファインダーは見づらいんですよ、倍率小さくて。同時にフォーカシングもできないし。
 

筆者はこの50mmレンズはちょっとデカいけど、とても気に入ったのですが、S3の復刻と合わせてくるには、ボディカラーはブラックペイントじゃなきゃダメなんじゃねと思ったのも事実です。時代的にはいわゆるS3オリンピックモデルですね。
 

NIPPON KOGAKU TOKYO刻印の富士山マークも再現しております。シリアルナンバーは独自のものなんですかねえ。

 

当初の復刻S3はシルバーのみだったのですが、やがてブラックが登場しました。やはり、ニコン内部には声の大きい人がいたのでしょうか。それともあらかじめ用意されていた企画なのでしょうか。
 

シルバーは往時のメッキをうまく再現できておらず、百均のファンデーションを塗ったような白っぽい感じで、筆者の食指はピクリとも動きませんでした。
 

アサヒカメラの記事ではよくやったとか褒めて書いた記憶もありますが。物欲全開とはなりませんでした。D1のほうも気になっていましたし。
 

で、ほどなくすると復刻S3ブラックボディが登場したのでした。これ、けっこう予想外のことで、復刻S3をいち早く入手してカメラ友達に見せびらかそうと考えた人は絶望的な顔をしていました。復刻S3シルバークロームボディを早々に入手し、修理業者にブラックリペイントを頼んだという人もいました。ご苦労さまです。

 


モータードライブ用の連結軸も再現してますね。必要ないのに(笑)S用モーターは改造が必要で、現品調整でした。でも世の中は広いから、自分で改造して使用している人もいるんだろうなー。

 

ブラックペイントの製造台数は2000台くらいということでしたが、すんなりと入手できたと記憶しております。価格は530,000円だったかなあ。どう資金調達をしたのか覚えていないですね。そういえば当時の取材時に、水戸ニコンで復刻S3の価格の話になったのですが、この時の復刻プロジェクトの責任者は市販価格を知って、とても驚いた顔をしていたことを、いまもはっきり覚えています。つまり、工場出荷価格と市販価格の差が大きかったのでしょう。製造現場はどこもたいへんですね。
 

もともと筆者のところにSシリーズは数台手元にあって素直に使うことができました。ただ、新品のうちからギヤやヘリコイド関連の動きがグリース切れしたみたいにスムーズじゃないのです。これ調整しようかと思ってそのままになっていますが、近々キィートスさんに相談するかなあ。
 

で、入手した復刻S3ブラックですが、外観の一部にちぐはぐなところがあるのがわかりました。いや、ニコンを研究している人ならツッコミどころ満載みたいですが、筆者自身がアバウトなので気になるところだけ書いておきます。
 

もともとニコンS3にはブラックペイントモデルが存在したようです。ですが、生産数はかなり少ない。S3のブラックが有名なのは、オリンピックモデルとか呼ばれる再生産モデルです。これも一部にオリジナルのモデルからの仕様変更がありました。
 

それは巻き上げレバーが少し大きくなり、セルフタイマーレバーが平たくなり、シャッター幕がチタンとなったことです。ところが復刻ニコンS3ブラックをみますと、巻き上げレバーはオリンピックモデルと同じデザインなのですが、セルフタイマーは古めかしいオリジナルのタイプだし、シャッター幕は布幕です。

 

しかも、用意されたレンズは後期型のニッコール5cm F1.4ですから、時代の整合性という意味では、違和感を覚えたわけであります。ま、大した問題じゃないんですが。いちおう備忘録的に書いておきます。
 

もっとも「実際に撮影することができる復刻S3」ということを強くアナウンスしていたこともあり、フィルム感度ダイヤルがISO表示ですし、水戸ニコンに伺った時にお聞きした話によれば、ホットシューにする計画もあったようです。筆者は実際にそのパーツを見せていただきました。たぶんパーツの写真撮影はNGだったのかな。

 


底蓋にあるフィルム感度設定ダイヤルです。「ISO」表示ってのが律儀です。最高感度400って、ニコンSPの後期のものとか1600表示のものもありましたぜ。ま、気にする人はいないと思いますけど。

 

筆者の仕事も、次第にデジタルにシフトする時期でしたけど、復刻S3モデルはそれなりにアサインメントにも持ち出して使ったことを思い出しました。
 

少しでもモトをとってやろうと考えたのです。AF一眼レフとライカM6を併用するなんていう状況ってけっこうあったわけです。その感覚で使用すればいいわけですが、S3はライカより使いづらい(笑)。無理やり使用している感は否めませんが、距離指標はメートルですし、目測での撮影も迅速に行うことができました。
 

苦労した復刻プロジェクトなのに、復刻S3って中古市場の評価はあまり高くないですね。でも実用として考えると安心なんじゃないかと思います。

 


セルフタイマーレバーであります。デザイン気にいらないです。S3オリンピックと同じ、もうちょい新しい、平たいタイプのがいいのになあ(個人の感想です)。

 

当時としても復刻の意義は何かという論議もありましたが、一般的にライカと比較して、さほど人気はなかったニコンSシリーズを大胆にも復刻したプロジェクトって、すごいことだし、モノ作りを見直すという意味でも良かったんだろうなと思います。
 

いまでは日本国内で真鍮外装のカメラを作るのは難しいんじゃないでしょうか。少なくともこの復刻S3や一眼レフではニコンFM3Aが最後の真鍮カメラになるわけで、同様の復刻プロジェクトの実現はもう不可能でしょう。
 

でも復刻S3の外装って、なんか薄い感じがしますがどうなんだろう。ちょっとコツンとしただけで小さな凹みができて、夜に寝付きが悪くなったりします。
 

真面目な良い子、正しい写真表現者はニコンZ fのヘリテージデザインと戯れることで我慢することにしましょう。

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