©一之瀬ちひろ
東京・小伝馬町のkanzan galleryではkanzan Curatorial Exchange「Spacing」 vol.1 として、4月12日(土)から5月25日(日)まで、一之瀬ちひろの個展「Hello, darkness この身体のいるべき場所はどこ」を開催する。
- 一之瀬ちひろはこれまで、私的な日常生活の中で、また普段とは違う場所に行くことで生まれた感情を、ストレートな写真だけでなく、コラージュや暗室で色光に露光された印画紙、あるいは壁にテープ留めされた写真を撮影したものなどをその拡がりのまま取り扱いつつ、自分だけでなく自分を取り巻く他者の日常がどのように保たれているのかを探り、そうした私たちの生が大きな歴史へと収束されていってしまうことへのささやかな抵抗を、普段は意識に上ってこない捉えがたいものを知覚することのできる媒体として写真を使って現し、表明してきました。
彼女にとって約4年ぶりとなる今回の個展は、仕事で訪れた福島県の大熊町と双葉町で感じたことをもとに制作された新作「Hello, darkness」を中心に、イメージに関するテキスト、印刷物、プリントの束、電飾、テーブル、ベンチ、そしてパフォーマンスを組み合わせた複合的な体験の場になっています。ケネディ暗殺の3ヶ月後に発表された、サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」の歌い出し「Hello, darkness, my old friend」と、福島で撮られた写真を東京のギャラリーで見るとき、私たちはいったいどこにいて、何を見ているのかということを問いかけてくる今回のタイトルは、サイモンがこの曲で光と闇のイメージを使って、無知と無関心が人々の単純なレベルでのコミュニケーション能力さえも破壊してしまうことを表現したことと響きあいます。
大学院の博士課程において表象文化論の研究者でもある一之瀬は、しかし、この展示が何らかの考えや教義を押しつけるものであってはならないと考えています。彼女がこれまでずっと大切にしてきた私たちの日常生活や個人的な経験は、保護しなければば容易く失われてしまうものであり、どこまでもデモクラティックであるべきものなのです。シンボルスカの詩、思想家たちの声、そして研究対象であるジョナス・メカスなどについての知見は作品の中に見え隠れしていますが、それは写真を見る際には括弧に入れられ宙吊りにされ、写真自体を見るという経験そのものを提供しようとしています。
詩が書かれた紙が撮影された写真を見るとき、知人のポートレートを見るとき、深刻な被害を残す帰還困難区域の写真を見るとき、あるいは一枚の紙が何かを形作る様を見るとき、私たちはいったい何を見ているのでしょうか?一之瀬は、写真とは何だろうと考えれば考えるほどそこから離れていく感じがあると語りますが、見ることには複数の基準があり、どこまでいってもその結論は出ません。写真の意味は固定されることはなく、見る人ごとの経験によって、また、それぞれの写真と写真との関係性において変わってくるのです。繋がっているようで繋がっていない、ある間隔をもって配置された複数の作品は、一つの大きな問題意識のもとで一つの展示空間として構成されていながらも、その中に小さなテーマがいくつも含まれています。この展覧会は、鑑賞者が複数のテーマの重なり合いや響き合いや余白に耳をすますことができる、そのような場所を目指して作られています。
■開催概要
kanzan Curatorial Exchange「Spacing」 vol.1
一之瀬ちひろ「Hello, darkness この身体のいるべき場所はどこ」
会期:2025年4月12日(土)〜5月25日(日)
時間:12:00〜19:30(日曜は17:00まで)
会場:kanzan gallery
休廊日:月曜日
出展者 | 一之瀬ちひろ |
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会期 | 2025年4月12日(土)〜5月25日(日) |
会場名 | kanzan gallery |
会場の住所 | 〒101-0031 東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル 2F |
URL | http://www.kanzan-g.jp/exhibitions/chihiro-ichinose-2025/ |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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