「李富子さん,ブイコフ(旧内淵)」2014年
新田樹は1996年にはじめてサハリンを訪れて以降、2010年より継続的にこの地に通ってきました。1905年のポーツマス条約締結後、日本の北辺の地となっていた樺太は、1945年のソ連による対日参戦によって異国の地となり、多くの日本人が本土へと帰っていきました。その一方、敗戦に伴い日本国籍を失った人々は、サハリンに留まらざるを得ませんでした。新田がレンズを向けてきたのは、戦後この地に取り残された朝鮮半島出身者(カレイスキー)やその配偶者たちです。
サハリンで日本語を話す女性たちに出会った新田は、「日本の方ですか?」と、話しかけました。その時の「いいえ、私たちは戦争の前にここへ来た朝鮮人です」という返答は、自身の中に深く沈滞し、長くサハリンに通い詰めるきっかけとなりました。その道程は国家と国家の深い谷間に落ち込んでしまった人々や風景に目を凝らし、そこに響く消え入りそうな声に耳を傾けることでもありました。
新田の写真には、日本と朝鮮、そしてソ連(現ロシア)のあわいで宙づりになりながら、寄る辺なく生きることを余儀なくされた女性たちが写されています。そして、歴史の激流に翻弄されつつも、彼女たちがこの地に足をつけて積み上げてきた時間の層や日本領だった頃の痕跡を簡単には消し去らないサハリン特有の風土が静謐な画面の中に捉えられています。昨年、第31回林忠彦賞と第47回木村伊兵衛賞を受賞し、近年高い評価を受ける新田の作品をぜひご覧ください。
企画構成 小原真史
- 新田 樹(にった たつる,1967− )
1967年福島県出身。東京工芸大学工学部卒業後、麻布スタジオを経て半沢克夫氏に師事、1996年独立。2023年3月、ロシア・サハリンに暮らすサハリン残留朝鮮・韓国・日本人の姿を収めた写真集『Sakhalin』(ミーシャズプレス)と写真展「続サハリン」(ニコンサロン、東京)で2023年、第31回林忠彦賞、第47回木村伊兵衛賞を受賞。個展に「続サハリン」(THE GALLERYニコンサロン)、「Sakhalin」(三鷹市美術ギャラリー)、グループ展に「スティル・エコー:境界の風景」(東京都美術館)など。
- 写真展タイトル 新田樹写真展「樺太/サハリン」
展示期間:2024年9月9日(月)~2024年10月30日(水)
10:00~19:00
休館日:木曜日、日曜日、10月5日(土)
*ただし、10月13日(日)は開館
入場料 無料
場所 東京工芸大学 写大ギャラリー
〒164-8678 中野区本町2-4-7 5号館2F
TEL 03-5371-2694 (直通)/03-3372-1321(代)
地下鉄丸ノ内線/大江戸線
中野坂上駅下車 1番出口・徒歩7分
展示作品 カラー写真作品 約50点(予定)
- トークイベント
「樺太とサハリンのあわいで」
2024年9月27日(金)18:30〜
登壇:新田樹×小原真史(東京工芸大学准教授)
参加費無料、要予約(03-5371-2694/shadai-gallery@t-kougei.ac.jp)
出展者 | 東京工芸大学 写大ギャラリー |
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会期 | 2024年9月9日(月)~ 2024年10月30日(水) |
会場名 | 東京工芸大学 写大ギャラリー |
会場の住所 | 〒1648678 東京都中野区本町2丁目4-7 5号館2F |
URL | http://www.shadai.t-kougei.ac.jp/index.html |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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