東京神保町のThe Whiteにて、金村修ワークショップ企画 梶瑠美花写真展「sugar for the pill」が開催される。
金村修ワークショップは、金村修、小松浩子、タカザワケンジが講師を務める写真と表現のワークショップ。2023年に参加した受講生の中から「ぜひこの人の個展を見たい」と講師が認めた受講生の写真展を企画している。
梶瑠美花は、福岡生まれ、福岡県立大学看護学部卒。2011年より独学で写真を始める。2022年に上京後、東京を中心にSNSで出会った女性たちへのインタビューと撮影を続けている。
- [個展に寄せて]
撮る/撮られるから、写真による対話へ タカザワケンジ(写真評論家)
ポートレイト写真にはセンシティブな問題がつきまとう。
カメラを手にした側は、レンズの前にいる人物をコントロールし、自身の意に沿う写真を撮ろうとする。シャッターを切る決定権はカメラを手にした側にある。写真撮影が創作である以上、作者のエゴが発揮されるのは当然だ。しかし、相手が人間である以上、撮る/撮られるという関係には必然的に権力関係が生まれてしまう。しかし撮られる側がいつもコントロールされる側にとどまり、黙って撮られているだけというわけではない。カメラを手にした人間が「撮りたい」と思うように、「撮られたい」と思ってレンズの前に立つ人がいる。どう撮りたいか、どう撮られたいかというそれぞれの欲望がスパークした結果──それが梶瑠美花の写真である。
梶は本展のステートメントで制作プロセスを明かしている。
(1)ソーシャルネットワークを使用し写真に写りたい人物を探す。(2)その人物が指定した日時に指定された場所に行き、その場で即興的にスナップショットのスタイルで写真を撮る。(3)同日インタビューも併せて行い、彼女らに話したいことを話したいだけ話してもらう。
なぜ梶は彼女たちを撮りたいのか。梶はその根拠に自身が従事していた医療現場で論じられているケアの概念を置いている。対人関係のプロセスそのものがケアになるという考え方だ。
なぜ彼女たちは梶に撮られたいのか。その問いに対する答えはさまざまだろうし、言語化するのは困難だろう。
梶は写真を撮ることで、言葉のいらないコミュニケーションの可能性を示す。そのうえで彼女たちが発したい言葉に耳を傾ける。そこには撮る側と撮られる側が、ともに何かを表現したい、発信したいという共通の動機が存在する。動機はある。しかし伝えたいことがうまく言葉にならない。そうした手探りの状態での表現は写真が得意とするところである。写真はその表面だけを写すだけで、何の評価もジャッジもしないからだ。
梶は写真を撮り、文章を書き、それをアーティスト・ブックにまとめている。今回は初めて展覧会をいう方法を採り、空間の中でどう表現するかという課題に挑戦する。アーティスト・ブックではモデルとなった女性たちが一つに溶け合い、そこに何人の人物が写っているのかも曖昧だ。撮る/撮られるという境界すら曖昧になり、作者自身がこの中にいるのではないかとさえ思う。
19世紀のヨーロッパで科学的な知見をもとにリアリズムを追求した自然主義文学の一つに小説『ボヴァリー夫人』(1857)がある。宗教的なモラルに反すると批判され、議論を巻き起こしたが、作者のフローベルは敢然と「ボヴァリー夫人は私だ」と語った。描いた対象にまっすぐに向き合った結果、性差や設定を超えてその主人公は作者自身になったのだと。
梶もまた言うだろう。「彼女たちは私だ」
■展覧会情報
梶瑠美花 写真展「sugar for the pill」
会期:2024年7月9日(火)~7月27日(土)
時間:13:00〜19:00
休廊日:日曜、月曜
会場:ALTERNATIVE SPACE The White #205
住所:東京都千代田区神田猿楽町2-2-1
■プロフィール
梶 瑠美花(かじ・るみか)
福岡県出身。福岡県立大学看護学部卒。INFAエステティック国際ライセンス保有。
2011年頃より独学で写真を撮りはじめる。
出展者 | 梶 瑠美花 |
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会期 | 2024年7月9日(火)〜7月28日(土) |
会場名 | ALTERNATIVE SPACE The White |
会場の住所 | 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-2-1 |
URL | https://www.the-white-jp.com/exhibition/2024/0709/ |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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