「植物、暗室」©横田大輔
東京・新井薬師のスタジオ35分にて、横田大輔 写真展 「植物、暗室」が開催される。
横田大輔は、常に独自の方法で写真という媒体と向き合っている作家である。これまで横田は、写真の複製や劣化といったプロセスを反復することで生じる変化に着目し、イメージやフィルム、印画紙といった写真感材そのものを暗室内で変質させる手法を用いてきた。写真が変容していく過程そのものを作品化するこれらの試みは、写真表現における実験であると同時に、「写真とは何か」という媒体への根源的な問いを投げかけている。
昨年末、スタジオ35分では横田大輔写真展「植物、多摩川中流域」を開催した。本展では、近年横田が継続的に撮影を行っている多摩川中流域と、そこに自生する植物を対象とした作品を発表した。これらの作品は、従来の横田の作品と比べると、いわゆるストレート・フォトグラフィーに近い印象を持つものであり、これまでの作風を知る観客にとっては、その変化に新鮮な驚きをもって受け取られたことだろう。
本展示も同じく多摩川中流域のシリーズから構成されているが、展示タイトル「植物、暗室」が示すように、作家独自の暗室ワークを通して焼き付けられた植物の写真作品が並ぶ。
前回の展示とは異なる写真術によって立ち現れる、横田が覗く多摩川中流域の新たな世界を、ぜひご鑑賞いただきたい。
- 植物
- 多摩川へ通うようになってから約三年。久しぶりに訪れたいつもの場所は、昨年までとは様子が違っていた。例年通りなら、河川敷のほとんどの草木は枯れ果て広く砂地が露出しているはずなのだが、2026年の1月末時点では、見える砂地の範囲は川沿いの一部に限られていた。未だに生きているのか、それとも枯れているのかもわからない見知らぬ植物が辺り一帯を覆っていた。何より驚いたのは、去年の今頃にはいたるところに生えていたセイヨウカラシナの姿をほとんど見ることができなかったことだ。温暖化の影響や、昨年から行われている大規模な護岸工事も関係していたりするのだろうか。それとも、河川敷においてはこの程度のことなど当たり前の範疇なのだろうか。
- 昨年、頻繁に多摩川へと通っていた頃、急激な変化を目にするのは決まって大雨の後だった。たった一晩で河川敷の大半を埋め尽くしていた植物は根こそぎ倒され、そこからみるみるうちに枯れていく。そして一週間と経たず、異なる植物があっという間に辺りを新たに埋め尽くす。例えば春、河川敷一面を菜の花で埋め尽くしていたセイヨウカラシナが枯れ、数日後にはハルシャギクの花畑へと入れ替わる。都市部での生活の長い私にとって、「変化が先立ち、季節が移り変わったことを後に知る」そのような経験は、とても新鮮に感じられた。
- 暗室
- 久しぶりに暗室へと入る。と言っても、私の部屋をそのまま暗室として使うだけだから、暗くしただけのただの部屋だ。印刷した写真をネガとして使うから引き伸ばし機は使わない。天井にぶら下げた豆電球の光で印画紙へと焼き付ける。窓に暗幕はかかっていない。セーフライトが赤く照らすその奥の窓の向こう側は、一晩中ぼやっと薄ら青く光っている。その外光は思いのほか明るく、定着用のバット辺りには一際強い光が差し込む。その影響からか、定着液につけたはずの印画紙が、徐々に薄く灰色の皮膜を張るように感光していく。ちゃんと沈めていなかったから、印画紙の上には現像液がまだ少し残っていたようだ。もう一枚、綺麗なものを焼こうかどうか悩ましい。これはこれで、写真の中の植物が「遠さ」をまとったようで悪くない。
- そう言えば、デジタル技術が一般化する前までは、記録メディアは劣化していくのが当たり前だった。経年劣化に、程度の低い複製などが重なり、荒れてかすれながらも増えていく。随分とくたびれたな、なんて思うような姿の写真も当たり前のように目にしてきた。生産と流通、その過程で”もの”である写真は、自然と「遠さ」を獲得してきていたはずだ。
- 遠さとはなんなのか。誰しも、去年の今頃という、今目にしているものと重なるかつての同じ(違う)状況を回想することがあると思う。そのかつてと今の二つの層を隔てる距離。それは、昨日今日明日と地続きな時間経過としての距離ではなく、ただただ気の抜けるような、諦めによって生じる心理的な距離と言えばいいのか。
- 幼少期によく遊んでいたRPGの中で、ずっと見えているのに絶対に行くことのできない場所。ふと、あの感じを思い出す。
- ■展覧会情報
- 横田大輔 写真展 「植物、暗室」
- 会期:2026年1月28日(水)〜2月28日(土)
- 時間:16:00〜22:00
- 会場:スタジオ35分
- 休廊日:日曜日、月曜日、火曜日
料金:1drink order
■プロフィール
横田大輔(よこた・だいすけ)
1983年、埼玉県生まれ。2010年 「第2回写真1_WALL 展」グランプリを受賞。2016年、Foam Paul Huf Award、第45回(2019年度)「木村伊兵衛写真賞」を受賞。これまでに『垂乳根』(Session Press、2015)や『VERTIGO』(Newfave、2014)、『MATTER/BURN OUT』(artbeat Publisher、2016)など数多くの写真集を国内外で発表している。
主な個展・グループ展に、Foam写真美術館「Site / Cloud」(2014)、「Matter」(2017)、「SHAPE OF LIGHT」(Tate Modern、2018)、「Painting the Night」(Centre Pompidou-Metz, 2018-2019)、「Photographs」(rin art association,高崎,2021)など。
【関連リンク】
https://35fn.com/exhibition/daisuke-yokota-plants-darkroom/
| 出展者 | 横田大輔 |
|---|---|
| 会期 | 2026年1月28日(水)〜2月28日(土) |
| 会場名 | スタジオ35分 |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。


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