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ライカ100周年を記念し、ジョエル・マイロウィッツ、エドゥアール・エリアス、ジェイミー・カラムによる3つの写真展をドイツ・ウェッツラーで開催

2025/07/09

New York City 1962

From the exhibition: Joel Meyerowitz: The Pleasure of Seeing

Ernst Leitz Museum, Wetzlar 2025

 

ライカカメラ社(以下ライカ)は今年「ライカI」誕生100周年を迎える。これを祝して現在、世界各地で数多くの写真展やイベントが開催されている。その一環として、ライカ発祥の地であるドイツ・ウェッツラーでも多彩な催しが行われる。
 
ライツパークではライカフォトグラフィーの多様性を紹介する3つの写真展がスタート。いずれも選りすぐりの作品を集めた珠玉の写真展で、アメリカにおけるストリートフォトグラフィーの代表格に挙げられるジョエル・マイロウィッツ、ルポルタージュ写真に新境地を開くフランス人写真家エドゥアール・エリアス、そしてミュージシャンでありライカを愛用する写真家ジェイミー・カラムの作品を展示する。

 

開催期間は、2025年6月29日から9月21日まで。
 
■ジョエル・マイロウィッツ:The Pleasure of Seeing

 

Wyoming 1964

From the exhibition: Joel Meyerowitz: The Pleasure of Seeing

Ernst Leitz Museum, Wetzlar 2025


エルンスト・ライツ・ミュージアムでは、アメリカ人写真家ジョエル・マイロウィッツ(1938年~)のこれまでの活動を振り返る大規模な回顧展を開催する。展示される100点の作品は、すべてマイロウィッツ本人によって選ばれたものだ。1960年代から現在まで、アメリカを代表する写真家の一人として活躍するマイロウィッツが手掛けるストリートフォトグラフィーは、独自のスタイルを持ち、構成においては「色」がなくてはならない役割を果たしている。
 
本展では、1960年代のニューヨークで撮影された初期作品をはじめ、ヨーロッパや中国での写真、さまざまな都市の街角で捉えたスナップ、2001年9月のマンハッタンでの同時多発テロ事件後の緊迫した光景、そしてポール・セザンヌやジョルジオ・モーランディのアトリエに残る静物モチーフを撮影したものへと、時代とともに移り変わる彼の視点をたどることができる。また近年撮影されたセルフポートレートも展示される。代表作としてすでに有名な数多くの写真だけでなく、今回初めて公開される作品もある。1963年の作品で、自身の「ライカM2」に初めて装填したフィルムを撮ったものだ。

 

New York City 1974

From the exhibition: Joel Meyerowitz: The Pleasure of Seeing

Ernst Leitz Museum, Wetzlar 202

 

マイロウィッツの作品の中心にあるのは、ニューヨークシティだ。写真家ロバート・フランクとの出会いによって、当時アートディレクターだったマイロウィッツは写真の道に進むことを決める。路上という場が持つ無限の可能性、看板の文字や記号の交錯、さまざまな人々や集団との出会いが、彼の創作意欲を日々かき立てた。キャリアの初期からカラー写真に取り組み、1年後にはモノクローム写真も撮り始めるが、最終的にはカラーを中心とするスタイルへと移行した。当時の1960年代において、カラーフィルムは高価で、芸術写真はモノクロームが主流だったため、それは当たり前の選択ではなかった。しかし、1966年から67年までのヨーロッパ滞在期間では、マイロウィッツは2台のカメラを使い分け、モノクローム撮影とカラー撮影の両方を行っていた。出来上がった写真を比べ、その効果を探求することが目的だった。数年後、彼は「色」を芸術表現の主要な手段として確立する写真家のロールモデルとなる。
 
ジョエル・マイロウィッツ、キュレーターのカリン・レーン=カウフマン、イナス・フェイドによって企画された「The Pleasure of Seeing」は、マイロウィッツ作品の持つ多様性と進化し続けるその歩みを紹介するとともに、ストリートフォトグラフィーというジャンル、歴史と変化についても多くを語る写真展となっている。マイロウィッツは緻密に練り上げられた作品で見る者を魅了する。今日でも、優雅なダンサーのように路上を進み、目立たずしなやかな動きで出来事のすぐそばまで迫りカメラを向ける。

 
彼の作品の被写体は、数十年の時を経ても色あせることなく臨場感を伝える。そして、すべての意味を明らかにすることのないそれらの作品は、シーンについての深い洞察を促す。マイロウィッツのストリートフォトグラフィーは、今もなお、新鮮な驚きや気づきを与えてくれる。携帯電話に視線を落とす人々が街を行き交う今の時代だからこそ、それはより重要な意味を持つことだろう。

 

  • 「写真は私に世界と自分自身に関するすべてを教えてくれました」
    「私は常に、自分は“色”の代弁者であると考えてきました。色鮮やかな瞬間ではなく、私がテーマとするのは実生活です。見たもの、そのすべてを伝えることができたらと思っています。そこにおいて、まったく新しい地平を切り拓いてくれるのが“色”なのです」
ジョエル・マイロウィッツ

 

■エドゥアール・エリアス:Eyewitness

 

French Foreign Legion, Bambari,

Central African Republic 2014

Part of international efforts under MISCA, French soldiers

help secure the area and prevent attacks on civilians


戦争、逃亡、弾圧、貧困——フランス人ジャーナリストで写真家のエドゥアール・エリアス(1991年~)がカメラを向けるのは、極めて過酷なテーマだ。エリアスは、全世界で起きている社会的・人道的危機を自身の目で伝えることを使命とする若手フォトジャーナリストの一人である。ウェッツラーのライカギャラリーでは、エリアスによる3つの写真シリーズから選んだ作品を展示する。
 
「Well 77」シリーズは、イラクにおける油井火災における消火活動を捉えたドラマチックなルポルタージュ写真で、2017年初めに撮影された。2つめのシリーズは、2016年春、ヨーロッパを目指し危険な船で地中海を進む難民の救助活動を行う救助船「Aquarius(アクエリアス)」に乗船し、その現場を取材・撮影した「SOS Aquarius」。3つめは、中央アフリカ共和国でのルポルタージュだ。

 

Well 77, Qayyarah, Iraq, January 2017

Qayyarah, an Iraqi town near Mosul. Engineers from the North Oil Company

(Naft Shamal) work to extinguish oil wells set ablaze by the Islamic State

 

2014年、エリアスはフランス政府のミッションの一環として派遣された外人部隊の一団に同行し、悲惨な内戦の現場を撮影した。エリアスの撮影姿勢は、深い共感と粘り強さに支えられている。彼は現場に時間をかけて入り込み、被写体と向き合い、センセーショナルな描写ではなく、そこで生きる人々との心のつながりを重視する。その写真は、極限の状況に置かれながらも前を向いて生きる人々の強さと勇気を映し出し、個人的な体験と直接的な関与を通じて、彼らの物語を見る者へ力強く伝える。

 

  • 「写真家として、自分の作品は物語を伝える一様式だと考えています。ひとつの物語を届けるため、言葉や文章を組み立てるのと似ています」
    「写真家という仕事は、単なる“職業”ではなく、情熱と好奇心そのものです。多くの場合、コンフォートゾーンを抜け出し、自らを危険にさらすほどの献身を求められる活動です。その危険に惹かれてこの仕事をしているのではなく、物語の現場に立ち会うことができるという可能性、それに魅力を感じているのです」
エドゥアール・エリアス

 

■ジェイミー・カラム:These Are the Days

 

From the exhibition: Jamie Cullum: These Are the Days,

Leica Gallery Wetzlar 2025


歌手、シンガーソングライター、そして演奏者として様々な楽器を操るイギリス人ミュージシャンのジェイミー・カラム(1979年~)は、長年にわたり音楽活動と並び写真にも情熱を注いでいる。2014年には「photokina」でライカのアンバサダーを務めた。

 

カラムは、ライカで自身の日常を「ビジュアル・ダイアリー」として記録している。ツアー中に訪れた特別な場所を静物写真や風景写真として切り撮るだけでなく、自身やミュージシャン仲間、友人たち、そして偶然出会った人々にも度々カメラを向けている。カラーとモノクロームでの写真は、彼の個人的な日常や心の動きをそっと覗かせると同時に、旅先で受けた新鮮な刺激や予期せぬ出会いの瞬間を鮮やかに記録している。かねてより既に「アマチュア写真家」を超える存在であったカラムは、カメラという媒体を周囲の世界と深く結びつくための創作的なツールとして使っている。写真展のタイトルは、2004年発売のアルバム「Twentysomething」の中にある曲からとったものだ。

 

  • 「この世界がいかに奇妙で信じがたいものであるかを示す瞬間を捉えたとき、その写真は永遠に記憶に刻まれる一枚になると思います」
ジェイミー・カラム

 

これらの写真展は、WhiteWallの後援により実現した。
 
■プロフィール
Joel Meyerowitz(ジョエル・マイロウィッツ)
1938年3月6日、ニューヨークシティに生まれる。絵画を学んだあと、アートディテクターとして活動。写真家ロバート・フランクとの出会いにより、アートディレクターの職を辞し、写真家への道を進むことを決める。ニューヨークおよびアメリカ国内の撮影旅行でストリート写真を数多く撮影した後、1966年から1年間、ヨーロッパに滞在。「ライカM2」「ライカM4」「ライカM6」などを愛用し、現在はライカMシステムおよびライカSシステムを使って撮影を行う。複数の書籍を出版し、2016年にはこれまでの活動を称えてライカカメラ社より「ライカ・ホール・オブ・フェイム・アワード」を受賞するなど数多くの賞を受賞。ニューヨークおよびロンドン在住。
 
Édouard Elias(エドゥアール・エリアス)
1991年6月29日、エジプト人の父親とフランス人の母親のもと、フランス・ニームにて生まれる。
エジプト、シャルム・エル・シェイクで10年間を過ごした後、経済学を学ぶため、2009年にフランスに帰国。その後、フランス・ナンシーにある美術学校エコール・ド・コンテ(École de Condé)に再入学し写真を学ぶ。すでに在学中から、トルコのシリア難民、戦時下のシリアを自主的に撮影。
2013年6月6日、取材中に現地の武装勢力により拉致され、11ヶ月後に解放される。以来、写真家として人道的危機や世界の紛争地域の取材に、より精力的に取り組んでいる。最近の活動としてはウクライナから現地の状況を伝えている。彼の作品はこれまでに多数の賞を受け、国際的に発表されている。「ライカM2、M5、MP、M11-P、Mモノクローム」など、複数のM型ライカを使い撮影を行う。
 
Jamie Cullum(ジェイミー・カラム)
1979年8月20日、エセックスに生まれ、幼少期より音楽に親しむ。大学で文学と映画を学ぶ費用を捻出するため、多くのクラブやバーでミュージシャンとして演奏を始め、1999年最初のアルバムを発表。2001年、大学を卒業後に2枚目のアルバムをリリース。2003年には、早くもブリティッシュ・ジャズ・アワードで新人賞を受賞する。多様なスタイルを持つ彼の楽曲同様、その写真作品も幅広い領域をカバー、その多層性が魅力となっている。ロンドン在住。

 

【関連リンク】
https://leica-camera.com/ja-JP/press/100zhounianwojinianshita3tsunoxiezhenzhanwouetsutsuratekaicui

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