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写真と映像のアワード「THE NEW CREATORS」第1回グランプリ受賞作品および受賞者が決定

2025/07/06

写真作品グランプリ 自由部門「時間の交差」海岸砂湯 花田 智浩

 

「THE NEW CREATORS」は、ソニーのPurpose(存在意義)である「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」に則り、ソニー関連各社がその想いに共鳴した新しい才能を見出し、クリエイターと“感動”の未来を共創していく、「写真&映像アワード」だ。
 
第1回のTHE NEW CREATORSには渾身の作品が数多く寄せられ、4名の審査員による厳正なる審査によりグランプリを含む各賞が決定した。
 

■受賞者・受賞作品 写真作品
▼グランプリ
自由部門「時間の交差」海岸砂湯 花田 智浩

【作品説明】
およそ100年前の大分県別府市の風景と現在の別府市を同じ場所で撮影して写真を重ね合わせました。その後、50年前の雨水であった温泉水を使い、柿渋と温泉水を使って色が変化する温泉染めを行いました。100年前の人たちが描いた未来、私たちが見る100年前の過去。現在、日本一の温泉地である別府は、温泉の過剰なくみ上げや地熱発電の開発などにより、源泉の温度が低下する事によって温泉が減少しています。天からの恵である温泉は、100年後の未来にも残っているのか?
 
石川 直樹氏 講評
過去の誰かが撮影した写真に対する、作者なりの敬意は感じられた。積み重ねられた時間によって今があり、環境が変化していくことへの意識の顕れも読み取れた。一枚の写真で表現するという制限の中で、できる限りのことを考え、丁寧に仕上げようとした手跡が見て取れたことを評価した。
 
蜷川 実花氏 講評
今回の応募作の中で、最もコンセプチュアルでした。世界に対するあなたの問いをさらに磨いていってください。

 
▼優秀賞
自由部門 「旧姓へ」suzuki takuya

【作品説明】
私は自身の離婚経験からシングルマザーとその子供に対して何か力になれないかと考えるようになった。私は写真で応援しようと決めて、インスタグラムで被写体を募集した。実際にお会いできたのは離婚調停中の方だった。その方は疲弊していた。そして感じたこと。
「子供が母親を守っている」
そこにあったのは社会が抱えたあらゆる課題と社会が託したあらゆる希望のかけらだった。それを表現した。
 
石川 直樹氏 講評
当然ながら、写真は自分と世界との関わりの中から生まれる。suzukiさんの写真は他人を被写体にしているとはいえ、その中に自らの経験や生き方がわずかに投影されていて、そこを見た。
 
蜷川 実花氏 講評
写真としての力と強さがある、ストレートな作品だと思いました

 

▼U25部門
「失桜」渡辺航

【作品説明】
桜が散る季節にフィルムカメラで撮影しました。意図せずに多重露光してしまうのはフィルムカメラだけです。多重露光してしまったので失敗写真かと思いましたが空の青さと河津桜のピンク色がお気に入りです。
 
石川 直樹氏 講評
渡辺さんの写真は、最初は水面に映った桜を写したのかと思ったが、そうではなく多重露光であった。しかし、第一印象の強さから票を投じた。
 
蜷川 実花氏 講評
フィルム写真は予期せぬことが起こるのが面白いところ。ハプニングを自分のものにしていける自由さがあると作品の幅が広がります。これからも自分のことを開いておくといいと思います。

 

▼入賞
ネイチャー部門 「巳」小寺 照哉

【作品説明】
最初に見たときは、ただの山並みでした。
時間がたつにつれ山が雲をまとい、まるで蛇のようなうねりを魅せました。

 

自由部門 「静かなひととき」毛 潔

【作品説明】
静かな海辺の浅瀬で、人々が穏やかなひとときを過ごしている様子。遠浅の水面には青空が反射し、柔らかな光が広がっている。子どもたちは水遊びを楽しみ、大人たちはその様子を見守るように佇んでいる。自然の中での平和な日常と、家族や仲間との温かい絆を感じて、シャッターを切った。

 
■映像作品
▼グランプリ
ドキュメンタリー部門 「親愛なる声へ」河合 ひかる

【作品説明】
私は日本語しか、話すことが出来ない。一方で、私の家族は中国語しか話すことが出来ない。言葉は通じずとも私は祖父のあたたかい眼差しと声が大好きだった。彼が危篤だと聞いてからは、中国語の単語帳を書き写し、音読したり彼への手紙を中国語で書いたりしていた。単語帳に載っているのは、未知の言語であるはずが、読んでいるうちに祖父の声によって発音で再生され、懐かしさが込み上げた。単語は家族と過ごした記憶だった。彼への手紙と単語帳の内容が交差してしまった。
 
上田 慎一郎氏 講評
創り手自身の経験による極私的な物語。それが作品に圧倒的なリアリティと独創性を与え、唯一無二たらしめている。そして、その個人的な「私」の話は、言葉の壁を超えて他者を理解したいという社会的な「公」の話にも繋がっている(ようにも受け取れる)。まるで記憶の断片を巡るような独自固有な編集技法は作品が持つ物語性と見事に合致し、この作品に一層の強度を与えている。独創性と技術が合致した唯一無二の作品だ。
 
大喜多 正毅氏 講評
映像と音声のマッチングが素晴らしく、彼女のアイデンティティを探る旅に、いつの間にか引き込まれ、内にある温かい場所に連れて行かれました。別録りした音と映像を丁寧に一つずつ結んでいった結果、ラストの窓から夕景が見える同録のシーンがとても生きてくる。映像、音、声、環境音、無音などを重ねながらも、どれも輪郭がハッキリ伝わるバランスで編み上げたのは、心地良かったです。こんな作品に出会いたくて、今回、参加させてもらいました。

 

▼優秀賞
ドキュメンタリー部門 「Seeking sign of soil」矼 由之輔

【作品説明】
藍染めした布を土に埋め、掘り起こした素材を繋ぎながら作品を作る山田珠子さん密着プロセス動画。
人は自然の中から生まれ、社会生活を形成する間もないころには衣類をまとっていた。現代の消費社会では排泄分もトイレに流れ、動物の命を奪う行為も身近でなくなり、命の滅びゆく様を見かけなくなっている。服もまた原型が無くなるまで着ることはないだろう。山田さんは消費が循環する今の社会空間から布を解き放ち、自然が持つ諸行無常の中へそれが還っていく様子を観察している。
無数の命たちの痕跡を浮かび上がらせたい。
 
上田 慎一郎氏 講評
見た事のない独自の方法で藍染め作品を創る山田さんの面白さは言わずもがな、それを追った本作の凄みはその伝え方にある。一切のテロップやナレーションを使わず、「映像のみ」で伝えているのだ。彼女は何をしているのか?何を創っているのか?何を想っているのか?頭に浮かぶ数多くの「?」。それが作品に推進力と余白を与えている。画角や編集が洗練されているので映像だけでグイグイ魅せられてしまう。
 
大喜多 正毅氏 講評
映像の切り取り方が、素晴らしい作品。ゆっくり流れる時間を、ピリッと引き締める無駄のないフレーミングが作品に緊張感を持たせ、素晴らしいサウンドデザインも相まって、最後まで見入ってしまいます。土と藍を引き立たせる、ティール&オレンジのカラーグレーディングも作品をより、良く見せている。

 

ドキュメンタリー部門「生き生きと。」上田 雄太

【作品説明】
「世界を感動で満たす共創者を、待っている」この言葉に心奮い立ち、本作を制作しました。
物や情報にあふれる現代において、本当の豊かさとは?心豊かに生きるとは?この問いに向き合う中で、徳島県の山奥で、電化製品を持たず、竃で煮炊きしながら暮らす中村修さんと出会いました。
暮らしを共にする中で、豊かさとは、モノに溢れ、便利な暮らしの中ではなく、困難を乗り越えていくその過程にこそ、人生をおもしろく生きる要素があると感じました。
本作が、私たちが日常を生き生きと生きるためのヒントになれば幸いです。
 
上田 慎一郎氏 講評
「楽しいだけじゃダメ。おもしろいがないと」。その言葉にハッとした。少し遅れて深く共感した。モノと情報に溢れた現代。生活と仕事の質は向上した…ように見える。しかし人生においての「質」とは何だろうか?スマホで大抵のことが出来てしまう現在と、スマホなしで待ち合わせ場所に集合しなければいけなかった昔と、果たしてどちらが「おもしろい」だろうか。そんな事を延々と考えさせられてしまった。
 
大喜多 正毅氏 講評
魅力的な人物を丁寧に適切な距離を保ちながら軽やかに切り取られた映像は、カメラを回す側にも、同じだけの軽やかさを持って生活をなされているのだろうと想像させる。15分の短い尺の中で、本人の言葉、仕草、周りの人との関わり方など、多角的に人物の魅力を描き出しているのは、素晴らしい。見たら、話してみたくなります!

 

▼入賞
イマジネーション部門「resume」小崎 愛美理

【作品説明】
演出家と照明家がコラボし、ある楽曲に新たなコンセプトを与え映像として再構築しました。テーマは「芸術に触れる初期段階の原風景」。視点はキャンバス。過去と現在が交錯し、好奇心と混沌、不整脈のような記憶のリズムが揺れ動く。光の三原色が画面を走り、探検し、衝突しながら形を変え、やがて白紙へと還る。音と光が反応し、未完成のまま加速していく。終わっていない、でもはじまっている。これは、光による探求の記録です。

 

ショート部門「春を蒔く」坪井 智洋

【作品説明】
北海道美瑛町では3月になると融雪剤の散布が行われます。白い雪に対し黒い灰を撒くことで1週間ほど早く雪を溶かすことができます。
融雪剤を撒くためには前日気温が上がり表面の雪が少し溶けた上で、夜間冷え込み雪が固まった翌朝でないとスノーモービルで入ることができず、1つ20Kg以上ある融雪剤の袋を不安定な場所でいくつも機械に充填していきます。春を少しでも早く手繰り寄せようとする農家の方々の大変な作業を多くの方に知ってもらえればと思い制作しました。

 

ショート部門「ある息子」浪瀬 聡太

【作品説明】
あらすじ
とある家族の話。母親が引きこもりの息子の部屋の前に料理を置く。そして、食べ終わった料理を母親が回収する。それは母親と息子の唯一のコミュニケーションだった。だが、実はもう息子はおらず、料理を食べていたのは父親だった。父親は母親と息子のコミュニケーションを守る為、今日も息子の部屋の前に置かれたご飯を食べる。
料理は実際の母親に作っていただきました。1分という短い時間の中でセリフを無くしていかに伝えられるかにこだわりました。

 

■審査員総評

▼写真作品
石川 直樹
応募された写真群は、美しさを追求したり、奇をてらったり、コンセプトだけが過剰に目立つものであったりして、どの写真も、自分にとってはまったく物足りなかった。写真は何を撮るかではなく、なぜそれを撮るのか、のほうが大切である。その軸がブレてしまうと、見せかけだけの作品になってしまう。たった一枚の写真から作家の批評性を探るのは大変難しく、審査は逡巡の繰り返しで、自分にとっては「腑に落ちる」という言葉からは少々遠い結果となっている。
 
蜷川 実花
今回のコンテストは、作品1点のみ、しかもデータだけで見て審査する形式だったので、作品の良し悪しを判断することが難しかったです。1枚での表現もあるし、連作じゃないとできない表現もあります。どんなサイズのどんな紙に出力するのか、どんな並びで見せるのかといったことも含めて、作品制作の自由度を上げないと表現しづらいのではと感じました。1点で判断するということは、「何をもっていい写真とするのか」ということを突きつけられたようで、自分のクリエイションにも深く関わるこの問い掛けと向きあう、有意義な時間でしたし、私自身も学びがありました。
 
▼映像作品
上田 慎一郎
多種多様な応募作の中で審査の決め手となったもの、それは「独創性」であった様に思います。似ているものがない唯一無二の作品である事です。そして興味深いのはグランプリと優秀作品の2作は、いずれも特定の個人にフォーカスをあてた作品でもあった事です。「最も個人的な事が最もクリエイティブな事である」。映画監督マーティン・スコセッシの言葉を思い出しました。
 
大喜多 正毅
今回、たくさんの映像作品を見させていただき、改めてコミュニケーションツールとしての映像の可能性を感じました。グランプリの河合さんの自分のアイデンティティを探る映像での自己対話は、一緒に探る旅に出ている感覚になり、引き込まれました。グランプリと優秀賞の3作品は、音のデザインが素晴らしく、映像をより魅力的にしていました。AIやフィルターのかかった映像が多くなった反動で、時代がリアルな物を求めているのか、ドキュメンタリー部門の3作品が受賞したのも偶然では無いように思います。今後、ますます誠実に、丁寧に時代を切り取った映像が増えることを望んでいます。

 

【関連リンク】
https://www.sony.jp/camera/the_new_creators/winners01/

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