川田喜久治は、1956年の『週刊新潮』創刊からグラビア撮影を担当し、その後フリーランスとして60年以上写真を撮り続けてきた。敗戦という歴史の記憶を記号化し、メタファーに満ちた作品「地図」(1965年)や、天体気象現象と地上の出来事を混成した黙示録的な作品「ラスト・コスモロジー」(1996年) などの代表作がある。
1990年代終わり頃より、デジタルでの作品制作も意欲的に行い、「カー・マニアック」(1998年)を皮切りに、都市に現れる現象をテーマに「見えない都市」(2006年)、「2011– phenomena」(2012年)、「ロス・カプリチョス-インスタグラフィー2017」と継続して作品を発表、2017年にはインスタグラムのアカウントを開設し、毎日1点から数点の作品をアップし続けている。
作品は、日本のみならず世界でも高い評価を受ける日本を代表する写真家の一人で、国内外問わず、多くの美術館に作品が収蔵されている。
「ロス・カプリチョス」シリーズは、1972年に『カメラ毎日』での連載を皮切りに写真雑誌で散発的に発表され、1986年にはフォト・ギャラリー・インターナショナル(現PGI)で個展を開催した。その後1998年に「ラスト・コスモロジー」、「カー・マニアック」と共に、カタストロフ三部作の一つとして写真集『世界劇場』にまとめられたものの、「ロス・カプリチョス」として写真集にまとめられていない。
本展「ロス・カプリチョス 遠近」は、「ロス・カプリチョス –インスタグラフィ– 2017」(2017年)同様、1960年代に撮影された作品も含まれるが、特にヨーロッパで撮影され、後に作品「聖なる世界」(1971年)にも見られる作品が、水と世界を象徴するイメージとして登場する。
「ラスト・コスモロジー」(1996年)に顕著に見られる空への写真的渇望は、「空から」として、アルフレッド・スティーグリッツのEquivalents を彷彿とさせる様々な雲の表情に、現代の都市の様相を表象させた。
パンデミック下の東京を撮影した作品では、視界を覆うような植物や、行き交う人々の佇まいを撮り、刻一刻と変化する現代の張り詰めたカタルシスを捉えています。
「この時、この場所」を俯瞰して捉えようとする姿勢は、時代と場所を自在に行き来して編まれた本作「ロス・カプリチョス 遠近」においても変わらず、パンデミック下でも止まることなく都市に刻まれる時を写し出した。
はるか遠くで始まったシリーズLos Caprichos は近くの見えない都市の日々を行き来しているが、町を走る数条の道は何処に向かっているのか、夕陽の落ちた黒く深い空へ続いているようにも見えるのだ。
フォトジェニックなイメージを異化することと未視の色彩を浮かび上がらせることはほとんど時代錯誤であろう。メビウスの輪のように反転する迷路、裏返しの回路に入った自覚さえチャンスを与えてくれない。隠れた都市の面影はふたたび悪魔の爪に荒らされ灰色一色の光景に変わっている。
微風が流れ、黒い空から黄金色の薄い紙が舞い降りてくる。春に赤と黄の可憐な花を見せのち強靱な紙に変わった三椏の純和紙である。新しいインクと絡んだ感情は郷愁の色彩と不穏な声を隠れた都市の迷路からすくい上げてくれた。
クロニクルな世界時を変転するヴィールス、遊園地の驚愕コークスクリューと噴水が謎のカタストロフを笑っている。
軌道のネジレにさまよい、夢のなかで消えるリアルな一瞬を追いかけるシャッター音が近くに聞こえてくる。
川田喜久治|Kikuji Kawada
会場:PGI
会期:2022年6月29日(水)– 8月10日(水)
月~金 11:00~18:00 日・祝日休館 入場無料
住所:東京都港区東麻布2-3-4 TKB ビル3F
TEL.03-5114-7935
http://www.pgi.ac
出展者 | 川田喜久治 |
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会期 | 2022年6月29日(水)〜 8月10日(水) |
会場名 | PGI |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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