Gent, Belgium 1979 ©Toshio Shibata
東京国立のZEIT-FOTO kunitachiで柴田敏雄「Early Works – 1987,1988 and Belgian days」が開催される。
本展は初期の10年間に創作された作品約50点を、下記の3つのテーマで構成している。
■ベルギー留学時代の作品(1970年代後半)
展⽰作品の中で最初期となるのは、柴⽥のベルギー留学時代の作品だ。1975年にゲント王⽴アカデミーに留学した柴⽥は、校⻑の勧めで新設されたばかりの写真学科に⼊学し、本格的に写真を始めることになった。それまでのアトリエでの絵画制作と異なり、屋外での撮影に新鮮さを覚えた柴⽥は、これ以降外の世界に⽬を向けるようになる。初期作品から⼤型カメラを⽤いたこともあるが、すでに現在の柴⽥の作⾵を感じることができる作家の原点ともなる貴重な作品群だ。
■中近東で撮影した作品(1987年)
79年にベルギーから帰国。当時、⽇本橋室町にあったZEIT-FOTO SALONの創業オーナー⽯原悦郎と出会い、82年の個展「Comme le Diorama ディオラマのように」を⽪切りに、90年代前半にかけて、2年に⼀度のペースでZEIT-FOTO SALONで新作を発表し続けた。第17回⽊村伊兵衛写真賞(1991年度)を受賞した「⽇本典型」の作品群に⾒られる、ダムや道路脇の法⾯など⾃然の中の⼈⼯物など、柴⽥作品を代表するイメージも、ZEITでの展覧会を振り返ると80年代半ばごろから⾒出すことができる。それと同時期に撮影されたこれらの作品は、意外な作品として⾒る⼈を驚かせるかもしれない。なぜなら、それは現地
で出会った⼈々を撮影したスナップ写真だからだ。柴⽥はこれをなんと4×5の⼤判カメラであるリンホフを主に⼿持ちし、撮影したという。今回の展⽰が初公開となる。
89年に⽯原悦郎は外部企画として『オリエンタリズムの絵画と写真』展を開催する。これは⽯原が所有していたオリエンタリズム絵画と、現代写真家がこれから創る新しい作品とを並べるという内容だった。そこで、⽯原はギャラリーに出⼊りしていた若⼿写真家数名に声をかけ、中近東イスラム圏に共に出て作品制作を決⾏する。柴⽥は合わせて4度、この撮影旅⾏に参加した。今回展⽰されるのは、2度⽬のトルコ(「To Cappadocia,ʼ87」)と3度⽬のエジプトで撮影した写真(「Aswan Western Agricultural Road, 1987」)が中⼼となる。
■造花などを撮影した静物作品(1988年)
ちょうど中近東への撮影旅⾏から戻った頃、柴⽥はより精緻で密度の⾼さを求め、カメラをこれまでの4×5から8×10へと持ち替え、このカメラで成し得る表現の追求を⾏なったという。その過程で⾏った静物の撮影は柴⽥にとって実験的な試みだった。被写体は⼩さな布製の造花や野菜などで、これも極めて珍しいことだ。⽯原悦郎が柴⽥敏雄について話すとき、その⼈柄はいつでも親しみやすく、⾃由な⼈という印象を私たちに与えた。実際の柴⽥に会えば、おそらく多くの⼈がそれに共感するであろう。⼀⽅で、⽯原はその作品は本質的に「⾮決定的な瞬間であり、鑑賞者の共感も拒絶する」と述べ、純粋芸術として評価した。「共感も拒絶する」という⾔葉には、私たちが柴⽥作品を前に、惹きつけて⽌まないにも関わらずただ焦がれるばかりに⽴ち尽くしてしまう、あの瞬間の本質を突いている。果たして、初期作品に私たちはどう振る舞うことになるだろう。
3つテーマを通じて、柴⽥敏雄作品をより深く知りたくなる、そんな展覧会となる。撮影当時に制作したヴィンテージプリント、ネガをスキャンし、デジタルで再現したインクジェットプリントも取り混ぜて展⽰する。
- ■展覧会情報
柴田敏雄「Early Works – 1987,1988 and Belgian days」
会期:2025年5月9日(金)~6月14日(土)
時間:11:00~18:00(金曜日は15:00~20:00)※火・水・木曜日はアポイントメントのみ
休廊日:日曜日、月曜日
会場:ZEIT-FOTO kunitachi
住所:東京都国立市中2-22-33
■サイン会&クロージングパーティー
日時:2025年6月14日(土)15:00~(予約不要)
中近東の作品をまとめた新刊写真集『1987』(Deadbeat Club刊/2025年5⽉下旬)の刊⾏を記念してサイン会とクロージングパーティーを開催する。
■プロフィール
柴田敏雄(しばた・としお)
1949年、東京都⽣まれ。東京藝術⼤学⼤学院美術研究科絵画専攻で版画や絵画制作を⾏う。修了後、ベルギー⽂部省から奨学⾦を受け、ゲント市王⽴アカデミーに⼊学し、新設された写真学科へ進学。ここで本格的に写真を始め、⼤判カメラによるモノクロ写真の制作に取り組み始める。
79年に帰国後、ツァイト・フォト・サロンで継続的に個展を開催。細部まで緻密に描写され、緊張感がありながらも優美さを備えた唯⼀無⼆の⾵景写真として注⽬を集める。
代表的なシリーズである「⽇本典型」は、柴⽥⾃⾝が「⽇本の国⼟の4分の3以上が⼭岳地帯であるため、⽣産的な⼟地利⽤には常に⾃然との闘いが伴う」と述べる通り、⼭を切り拓き河川を治⽔する⾃然と⼈とのせめぎ合いの場⾯を捉えたものだが、作品に表れるその「闘い」の痕は造形的に美しく、畏怖さえ漂わせている。その美しさは魅⼒的でありながらも、⼈が制御しきれないものの⼒を感じさせる。
92年に⽊村伊兵衛写真賞を受賞。2000年代からはカラー写真も発表し始める。⽇本の現代写真を代表する写真家の⼀⼈として国際的にも活躍し、国内外で多数の展覧会を開催。その作品は世界中の美術館に収蔵されている。
【関連リンク】
https://www.zeit-foto.com
出展者 | 柴田敏雄 |
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会期 | 2025年5月9日(金)~6月14日(土) |
会場名 | ZEIT-FOTO kunitachi |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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