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柊サナカのカメラ沼

第20話 わたしと赤外線写真

2023/05/02
柊サナカ

先日、新宿マルイで行われた、澤村徹さんの個展「視覚の陰謀論」に行ってきました。

赤外線写真って、現実にはない風景で、本当に素敵ですよね。澤村さんの写真は、例えば黒っぽい青空の下に廃墟のような建物が広がり、そこへ血のように紅葉した木が枝を伸ばしている、とか、人がひとりもいない見事な桜並木(本当は緑の葉)の向こうに暗い青空があり、現実の写真でありながらも、別の世界に立っているようなすばらしいものでした。
 

モノクロもすばらしいですが、カラーの鮮やかさと言ったら! すぐさま、会場で販売されていた「デジタル赤外線写真マスターブック」(ホビージャパン)を購入、澤村さんにサインまでいただくというはまりようでした。

 

そうなんです、わたしは赤外線写真が大好きです。ニコンF3にIR720(NEEWER)フィルターを付けて、フィルムは赤外線写真用のローライ・インフラレッド400を愛用、たまに撮りに行きます。緑の葉は真っ白に、空は黒く、雲は独特の白さで写ります。常用フィルムではありませんが、幻想的な様子に撮れるので好きです。どこか、異界というか、死後の世界のような雰囲気をおぼえます。

 

ところが、インフラレッド400はモノクロフィルム。赤外線のカラーフィルムについては、2023年4月現在、私の知る限りでは存在しないように思います。一度、「谷中レトロカメラ店の謎日和」でも、作中の重要なアイテムとして書いたことがありますが、かつては、コダックから、カラーリバーサル赤外線フィルムが発売されていたそうですね。残念ながら、今はもうなくなってしまったよう。カラーで撮れる赤外線フィルムは、たまにデッドストックが市場に出てくることがあります。もちろん期限切れのため、現像方法など、詳細がちょっとわからないので、おすすめすることはやめておきます。昔、カラーリバーサル赤外線フィルムを、お使いだった方がうらやましいですね。読者の方の中にもいらっしゃるでしょうか。

 

もう無くなってしまった赤外線カラーリバーサル写真……。わたしにとって、赤外線カラー撮影は夢でした。
わたしのまわりにも、赤外線写真をライフワークにしているベテランがいらっしゃいますが、その方は、デジタル一眼レフのセンサー前にある、赤外線に関係する部品を、改造を請け負う会社に頼んで除去、赤外線専用機として改造してお使いのようでした。
なので、赤外線写真には改造が絶対に必要なのだと思い込んでいました。わたしは、カメラの改造は、復元ができるもの程度の改造しかしないことにしています。赤外線専用機とまでは思い切れないわたしは、どうしたものか……と思ったまま、デジタル赤外線写真計画は、頓挫していました。

 

ところが、個展の会場で澤村徹さんに伺ったところ、実は、改造しなくても可能である(やり方次第で)、ということでした。衝撃です。やはり気になる展示には実際に行ってみるものですし、詳しい方にお話を聞いてみるものです。
詳しくは澤村徹著「デジタル赤外線写真マスターブック」を読んでいただきたい。

 

赤外線撮影仕様のリコーGRⅢ。 

 

わたしはいそいそとGRにフィルターを取り付けるべく、レンズアダプターGA-1を購入、赤外線カラー写真をやってみよう、と思いたったのでした。
GRは見ての通り、レンズが沈胴します。フィルターなんて付けられるのだろうか? と思っていたら、フィルターアダプターがあり、この通りいい感じにつきました。
フィルターアダプター自体に、レンズがせり出しても影響のない厚みがあります。このパーツ自体は5,480円と、カメラ本体に比べると、それほど高価ではありませんから、IRフィルター以外でも大いに楽しもうと思います。

 

撮影風景。赤外線フィルターが暗いので、三脚は必須です。

 

手持ちのIRフィルターの径が、フィルターアダプターには微妙に合いませんでしたが、ステップダウンリングで事なきを得ました。
撮影は晴天でしたが、やはり暗いフィルターなので、ISO100で1/5秒くらいとなりました。

撮れた写真がこちらです。
 

実際に撮れた写真。そのままだと赤くなります。

 

一応撮れたことは撮れたのですが、フィルターのせいでやたらに全体赤くて、なんというか、ちょっとよくわからないですね……なんだか、SF映画の生物の視界のようにも見えます。

 

ここからどうしたら、と思ったら、「デジタル赤外線写真マスターブック」に丁寧なカラースワップのやり方が書いてありました。ここで、Adobe Lightroomと、Photoshopが必要となります。このふたつをあまり使いこなしておらず、レイヤー? ラスタライズ? という程度の知識のわたしでも、わかりやすい懇切丁寧な解説がありましたので、おすすめです。
どうやら美しい赤外線写真のキモは、撮ってからの、上手な画像処理にあるようですね。
モノクロはなんとかなりましたが、カラーの方がまだ上手にできないので、もうちょっと試してみます。

 

これをカラースワップしたところ。モノクロにしてみました。 

 

澤村徹さんの個展「視覚の陰謀論」に行き、「デジタル赤外線写真マスターブック」を読んでいると、デジタルライカ欲しいな……と思うようになりました。わたしの人生には、もしかしてライカM8、およびライカM10が必要なのでは? 
ライカさえあれば、美しい赤外線カラー写真がもっと撮れるのでは?

 

知れば知るほど煩悩の数が増える、カメラ沼の入り口が手を振ってわたしを呼んでいます。
赤外線写真で見た異界の風景は、カメラ沼からの景色かもしれません。

 

 

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