top コラム書棚の片隅から15 『現代カメラのルーツ展』

書棚の片隅から

15 『現代カメラのルーツ展』

2023/04/24
上野修

カタログやパンフレット類を整理していたら、『現代カメラのルーツ展』のパンフレットが出てきました。
 

日本における写真発祥の地のひとつである横浜市は、アメリカのサーマン・F・ネイラー氏が収集したカメラ、資料などのコレクション約1万件を、平成5・6年度に取得しており、その横浜市所蔵カメラ・写真コレクション特別公開展として開催されたものです。

 

現在は、2005年開館の横浜市民ギャラリーあざみ野で、年1回のコレクション展が開催されていますが、同展は1999年ですので、横浜岡田屋モアーズの10階特別会場で開催されています。

 

 

縦長のパンフレットを開くと、カメラのビジュアルが多めで親しみやすいレイアウトになっています。さらにページを捲ると、蛇腹折りの「カメラのあゆみ」という年表があらわれます。適度に詳しく、カメラの進化がひと目でわかるのがいいですね。右端には、APSカメラとインスタントカメラとデジタルカメラが並んでおり、1999年という時代を感じさせます。

 

 

さて、このパンフレット、裏返すと同時開催の『中村正也 写真展』のパンフレットになっています。デザインもまったく違うので、いささか唐突な感じもしますが、横浜生まれの中村正也が、横浜市所蔵カメラ・写真コレクションのライカIIIcと、当時の最新のパノラマカメラである富士フイルムTX-1で、新作「ヨコハマ・プロムナード」を撮影した、という企画です。この企画と横浜について、作者は次のように述べています。

 

 奇しくも、この写真展の会場は横浜駅西口の駅前にある。いまは活力あふれる商業地区であるが、戦前は人影もまばらな田園であった。当時は港側の東口が駅の表玄関だったのである。私の生家は、西口から歩いて10分ほどの神奈川区松ヶ丘にあった。その名のように松の樹の多い丘陵で見晴らしがよく、正面に横浜港、右に富士山、左に川崎の工業地帯が見えた。父はカメラの趣味があった。父に連れられて山下公園の撮影会にいったことがある。日本髪を結ったモデルさんがいて、小学生の私もシャッターを切った。
 それからおよそ半世紀。横浜がとげた変貌は驚くばかりである。なかでも、21世紀型の都市を構想して建設され、なお建設が進んでいる「みなとみらい21」は、横浜全体を活気づける牽引車となっているのだろう。活気の連鎖反応はスポーツ界におよび、昨年は「横浜の年」とさえいわれた。しかし、馬車道から山下通り元町に至る周辺には、明治の西洋建築が多く残されている。中華街があり、外国人墓地がある。新しいものをたえず取り入れ、歴史として街にきざみつつ、変貌してやまない都市、それが横浜である。
 思えば、私が生まれた松ヶ丘の景観とそこでの暮らしは、伝統と革新という、横浜の精神を象徴していたかのようである。そこから、私は多くのものを得たと思う。懐かしいこの場所で写真展を開催できることに、縁の深さを感じる。

 

 

さまざまなアイデアの企画が混じり合い、ユニークな展覧会になっているのが、いかにも20世紀の終わりの横浜らしい気がします。それを体現したようなこのパンフレットには、曰くいいがたい魅力があります。そんなことを思いつつ、このパンフレットをそっと書棚に戻すのです。

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する