top 本と展示写真集紹介『牛腸茂雄全集』

『牛腸茂雄全集』

2023/02/03
髙橋義隆

『牛腸茂雄全集』(赤々舎刊)はタイトルが示す通り、1946年に生まれ、1983年に夭折した写真家牛腸茂雄の作品が網羅されている。
 
牛腸は死後、周期的に注目される時期がくる。最初の再評価は1992年に刊行された写真雑誌『deja-vu』8号で特集されたときであろう。その後も2001年に佐藤真監督によりドキュメンタリー映画『SELF AND OTHERS』が制作され、2018年に公開された濱口竜介監督の映画『寝ても覚めても』で、劇中に「SELF AND OTHERS」が展示されている場面が登場した。
 
2023年秋には資料編も刊行予定ということなので、2冊揃えば牛腸茂雄の全体像がほぼ把握できるであろう。
 
ここに捕捉的な視点を加えるのであれば、2005年に刊行された写真家新倉孝雄のエッセイ集『私の写真術 コンポラ写真って何?』(青弓社刊)が参考となる。新倉は牛腸が通っていた桑沢デザイン研究所の先輩にあたり、ともに大辻清司の教え子であった。
 
『私の写真術』の中で、新倉は牛腸との出会いについて触れている。すでに新倉は学校を卒業していたが、大辻が新倉の写真に興味がある生徒がいると伝えたという。それが牛腸であった。
 
それからわずかな期間、牛腸と新倉の付き合いがあったが、しばらくして距離が生じるようになった。牛腸がこのとき、新倉から何を得たのか証言がないのでわからないが、「日々」のタイトルの元でまとめられた写真を見ると、新倉が撮影してきた写真との共通点が見えてくる。コンポラ写真といわれるスタイルの人的交流がここに浮かび上がってくる。
 
資料編の刊行をきっかけにして、1970年代以降の日本写真史の検証が進めば、牛腸茂雄という写真家がより掘り下げて評価できるかもしれない。

 

  • 『牛腸茂雄全集 作品編』
    監修:三浦和人 
    執筆:冨山由紀子 
    Book Design:須山悠里 
  • 発行:赤々舎 
  • 価格:8,000円(税別)


【関連リンク】
http://www.akaaka.com/publishing/bk-shigeogocho.html

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